2012年2月16日

魔女のさだめ



少女は城の奥の奥にある、塔の最上階の部屋で今日も目を閉じていた。
ガラス張りの水槽の中で、何百年も。
彼女はこの世界に4人しか居ない魔女だった。その気になればこの世界も消す事だって可能なくらいの。

少女の母はかつて、彼女にこう注意を促した。
「あなたは魔女なのです。誰かの寵愛を受けない限りは、永遠に生きられます。歳も取らなくなるでしょう。」
「あなたが叶えたいと強く願う事があるのなら、それは魔法として使えるようになるかも知れません。それで人の役に立てて。自分の欲の為に使ってはいけません。」
「魔法は伝授される物でもなければ、こうすれば出来る、という決まりもありません。私も誰にも教わることはありませんでした。」
「でも、私はあなたのお父様と出会って、その道から外れました。私はもう普通の人間です。あなたと長くは寄り添えないでしょう。あなたも同じで、誰かを愛してしまったら、魔女としてはそこで終わり。その役は娘に行き渡るのです。」
「それと、魔女が4人揃ってしまうと、この世界に不吉な事が起こると言われています。それだけは気をつけて。」

少女は代々城に仕える占い師の家系だった。
しかしそれを知る者は、今はこの世界のどこにも居ない。
彼女の名前はロキシーと言う。
今はこのサラバンド王国の、生きる伝説として、自分自身の魔法で作った水槽の中に身を潜めている。

サラバンド王国は、かつては違う王家の名前だった。
ロキシーも城のお抱え占い師として生きていく筈だった。
しかし、魔女の力は目覚めぬまま、彼女は不吉な予兆だけを言い伝える。
まだ新入りだからと、当時誰も省みられなかったロキシーの予言は数年後に当たってしまい、侵略の限りを尽していた遠くの大国がこの国にも襲い掛かり、平和な世界はたちまち廃墟と化し、幾万もの命が失われた。
ついに敗北の色が濃厚となり、最後の抵抗として篭城を試みたものの、とうとう城の中まで敵が攻め入ってきた。
一つの国の命が、終わろうとしていた。
屈強な兵士が彼女を襲い、その美しい容姿を掠め取ろうとした時、

「やめて!戦争なんて!!誰か、止めて!!」
ロキシーの小さな叫びで、世界は一変した。
次の瞬間彼女の目の前にいた獰猛な兵士は勿論の事、敵という敵は、全てこの国から消え去ってしまったのだった。
破られた紙片が突風に流されるように、彼らは一体どこへ行ってしまったのか分からない。
ただ、まるで軍隊の居なくなってしまった国の命は、そう長くはなかった。

城にいた誰もががこの奇跡に歓喜に包まれる一方、ロキシーは自分の犯した魔法の力に戦慄を感じた。
私の力は、戦争もなくすのかもしれないけれど、結局は多くの命に手をかけるものではないか。
魔法は制御をされなければならない。一体どうすれば出来るのだろう。
そして私自身を、この恐ろしい力を誰にも利用されないように、どう護れば良いのだろう。

…この答えを探す為に、彼女は姿をくらましてとある山の中へ消えた。
それが数十年経っても、ロキシーの容姿は少女のままだった。
やがてロキシーは独りで幾つかの魔法を習得し、機会があればほかの魔女との交流…彼女達も代々変わっていったが…を注意深く行い、魔女たちの道しるべともなっていった。
ただ魔女が4人揃ってはいけないとの決まりを守るのも、決して並大抵ではない。

ある時、世界の平和と、魔女の決まりとを両方叶えるためにと、いつの間にか新しくなっていた王国の塔の中に潜り込んだのだった。
そして彼女は塔の最上階で、巨大な水槽に眠る自分の姿を作り上げた。
心の声は王室の者に届くように響かせた。
「私をここにおいて置く様に。国の平和の為、お力になりたいのです。」
声は伝説になり、ロキシーもまた、サラバンド王国の平和の為、ある時は小さな魔法を使って、この国を守って来たのだった。
王家も突然の生ける女神の存在の出現に最初は驚いたが、結局はこの存在を崇め奉り、小さな王国に過ぎなかったサラバンド王国は、その後の長きに渡る繁栄により、この世界屈指の大国にまで成長していった。
そんなお互いの共存共栄が、もう数百年にわたって、続いていたのだった。



なーんて話を、昔ぼんやりと考えていました。
代々続く、4人の魔女の話の一つです。
ある思い付きから絵を描いてみたら、文も書いてみたくなって、
ちょっと試しにこんな感じで書いてみました。
続きはどうしようかな…(^_^;)

0 件のコメント:

コメントを投稿