2013年5月20日

エリック・ル・サージュに思いを寄せる・その2

さて続きです。
その1でも少し書いたのですが、エリック・ル・サージュはいわゆるピアノのソリストとして以上に、他の楽器を伴ったアンサンブル・ピアニストとしてのご活躍が多く、昨年もフランスのクラシック・スーパー軍団(としか書きようがない気がする(^_^;)のレ・ヴァン・フランセの一員として来日しています。
(レコード会社との兼ね合いなのか幾ら検索してもル・サージュさんの写真が出てこないのですが、間違いなく一員です。この面々は去年NHKのらららクラシックでも特集されました。)
このためかどうか良く分からないのですが、実はあんまり知られていない存在?なのでしょうかル・サージュさん。こんなに「世界を構築している」のに・・・
レ・ヴァン・フランセでのアンサンブルも美しかった&サイン会での優しそうな微笑みは印象的だったのですが、やはり今回のリサイタルは彼独自の音が聴ける!と興奮気味でその日を待ちました。
そして・・・

翌日、頭が彼の音で溢れかえりそうになって、体調不良&頭痛に襲われました(^_^;)

いや、真面目にそうだったのです・・・。
私のからっぽアタマでは、彼の用意してくださった盛りだくさんのプログラムは私の中でそうたやすく消化しきれなかったのです。
ただでさえコンサートというのは、・・・それが例え聴く側であっても、普通の生活とは全く異なる世界を体感するということであり、身体を消耗させる行為なのです。(これはブログを書くとか、絵を描くような場合も同じ事です。運動とは違う心と身体を使っている感じと言いますか)クラシックの演奏会には多少慣れている方だとは思っていましたが、まさかこんなことになるとは。

今回のプログラムは、ル・サージュさんが今自分が表現したいものディナーに見立てて組まれたそうです。
ドビュッシー「子供の領分」
ドビュッシー「版画」
(これが前菜)
ベートーヴェン「ワルトシュタイン」
(これがメインその1)
~休憩~
シューマン「幻想曲」
(こちらがメインその2)
ドビュッシー「映像 第一集」
ドビュッシー「喜びの島」
(ここでデザート)

紀尾井ホールに着いてまず驚いたのが、開演が19時なのに終演が21時20分だということ。オーケストラの定期演奏会は大抵2時間が多いのに、リサイタルでそのボリューム!
尚私個人としては幻想曲と喜びの島は知っていましたが、ワルトシュタインは自信なし、あとは・・・みたいな状態で臨んだ事を先に書いておきます。

実はドビュッシーもシューマンも、ル・サージュさんは得意ですしもともとフランスの方ですから、もうドビュッシーなんて多分他の国のピアニストでは表現しきれていない「フランス的なもの」を模様のように出しつつ、控えめな煌びやかさと、まるで一枚の絵と対面しているような色彩感を出しておられました。
それはそれはもう、ここでしか聴けない空間だったのです。(なのにドビュッシーを録音されていないのは、あんなに確立した表現をお持ちなのにも関わらず、まだ彼には表しきれていない部分があるとお感じになられているのでしょうか?)
この世界感に関してはリサイタルの前々日にあった中木健二さんとのデュオでも存分に発揮されていて、乱暴に書いてしまえば「ちょっとやそっとじゃ日本人には真似できそうもないニュアンスのある」演奏なのです。お洒落と書くと途端に野暮ったくなりますが・・・
でもその辺りは私の想像以上でしたが、ある程度、ル・サージュさんの面目躍如だというのは事前に思い描いていた事でした。

しかし今回の彼の演奏で、私が尤も心を捉えて離さなかったのは実はベートーヴェンの「ワルトシュタイン」だったのです。
ただ先ほども書きましたがこの曲・・・いつかどこかで聴いた筈なのですが良く覚えていなくて、という体たらくでしたし、そんな私があんまり声高に書くのもどうかと悩みましたが
「凄くロックだなぁ。やっぱりクラシックも古い曲ではなくロックに通じる所が多分にあるんだなぁ、いいなこれ。」とずっと興味深く聴いていたのです。
こういう、クラシックなのにロックのように感じた体験は実は2度目で、初回は2004年の山形交響楽団で、まだ音楽監督になられていなかった飯森範親さんが指揮されたベートーヴェンの「運命」だったのです。そしてその時の印象が、それまで殆ど知らなかった世界への感銘となって、その後のクラシック趣味へと繋がっていたのです。

演奏会後でこの時の感想などを検索すると、このワルトシュタインに対しては批判的なご意見も多く見受けられたので、この演奏はかなり型破りなタイプのものだと知ったのは翌日になってからの事でした。同行してくれた家人も「テンポが急に変わったりしていたし一番ピンとこなかった」と話していました。
なので私の感想はかなりへんちきりんなものかも知れませんが、ル・サージュさんは今年になってからベートーヴェンのピアノソナタを録音して来年CD化されると聞いていたので「いや~、出たら絶対買おう!」と思ってしまったのは確かです。
実は他の演奏者のCDや演奏を聴いたら印象が変わるのかな・・・この辺はそうした方がいいのかも含めてとても悩ましい所です。

大雑把ではありますしどうも視点の違う感想のように思いますが、次の日頭痛で苦しんだくらいの、エネルギーに満ち満ちた演奏会であった事には間違いないと思います。
そして今一番気になっているのは、どうもこのリサイタル、録音されていたのではないかという感じがしてならないのですが・・・NHK-FMあたりで放送してくださらないでしょうか。
そうなったらツイッターでもブログでも全力で宣伝します!
エリック・ル・サージュの魅力は彼にしか生み出せない世界が、音の広がりがあるという、文字ではさっぱり説明がつかないので(オイ!)是非そのような機会があれば皆様にも「体感」して頂ければ幸いです。
えっすぐに?・・・eric le sage と検索すれば動画も幾つか出てきますが・・・こちらとかいかがでしょう?彼はいつもスタインウェイのピアノなのですが、この映像だとヤマハだ!おおこれはとても嬉しいです。少しでも彼の細密で色とりどりの雰囲気が伝われば良いな。

エリック・ル・サージュに思いを寄せる・その1

そうか・・・こちらでは一度も取り上げた事がなかったか。エリック・ル・サージュさん。
ツイッター、あるいは漫画ファイブスター物語に特化したブログ「絶対秘密。」では何回も取り上げているアーティストだったのですが。いかに私がぐうたらなのか分かってしまいます。

2年前、2011年の11月にあった紀尾井シンフォニエッタの定期公演で・・・ヴァレーズさんの指揮でしたっけ・・・そこで私は今までに全く耳にしたことのないピアノを聴きました。
曲はラヴェルのピアノ協奏曲で、この曲は私も好きですし、また多くのオーケストラがその華やかさとプログラムの組みやすさからかとても多く取り上げるため、ひょっとすると生演奏では一番聴いたかも知れない部類のコンチェルトなのですが、曲はあまりにお馴染みなのに、全然私の知らないラヴェルが響きだしたのです。音が鳴っているのに静寂が広がる不思議な世界。
そしてアンコールのドビュッシーのこれまた経験したことのないクリスタルのような数分の世界が終わるや否や、私は真っ先にCDを買いに走ったのです。
ただラヴェルもドビュッシーもなかったのでどれを手にしたら良いのか分からず、ジャケットに惹かれた写真一番左上のシューマンを買いました。

それがエリック・ル・サージュとシューマンとの出会いでした。この出会いがなんと幸運だったか!ル・サージュのシューマン全集は11枚(多くは2枚組み)もあってボリューム的にも価格の面でも(^_^;)大変でしたが半ば無我夢中になって集めました。だってどれも耳を離さない曲と演奏だったから。
(最近このシューマン全集は、廉価盤としてピアノ、およびピアノを含む器楽曲版としてまとめて出されております。はっきりいって超お得!ご興味ある方是非手に取っていただきたい・・・ピアノ版なんて13枚組みで3千円台ですから。)
何度ロマンスと悲哀と温かい眼差しに溢れた世界が私を魅了した事か。これは演奏者がシューマンに似ているんじゃないんだろうかと幾たびも思ったほどです(いや、実際はそんな単純ではないとは思いますが・・・)

その彼が、紀尾井シンフォニエッタでの評判が良かったからなのか同じ会場でリサイタルを開いてくれる事になり、しかも同時期にチェロの中木健二さんとのデュオ公演もあると知り、「これはル・サージュ祭りだ!」と勝手に宣言して発売日当日にチケットを購入し、その日をずっと、今か今かと待ち構えていたのでした。
長くなりそうなので次項に。
今回やっと揃ったシューマンの11枚(一部パンフレットなどで隠れてますが)の作品群とともに。このジャケットだけでもうっとりする感じに仕上がっています。ただ、ル・サージュさんの写真はちょっと古すぎです(^_^;)直さないのかな・・・一枚サインが入っているのは昨年のレ・ヴァン・フランセのときにいただいたもの。この辺りの事も若干次に書いています。。